フィールド・オブ・ドリームス

0294.jpg「フィールド・オブ・ドリームス」。
言わずとしれた名作。
☆☆☆☆☆

いつが最初で、何回観たのか全く分からない。
アメリカでは、「オズの魔法使い」や「素晴らしき哉、人生!」と共に、親が子供に見せる映画らしい。

この映画って、色々な要素があるけれど、ファンタージでもあり青春映画でもあり。

If you build it, he will come“(それをつくれば、彼はやってくる)で始まる。
この言葉で収益源であるトウモロコシ畑を潰して「それ」である野球場を作る。
で、誰が来たかというと、シューレス・ジョー。
これはまさしくファンタジーだ。

監督はフィル・アルデン・ロビンソン。
誰?と言う感じ。
この作品以外ヒットしていないのだ。
ジェームズ・ホーナーの音楽も素晴らしい。ただ、彼の他の素晴らしい音楽はやかましいのに、この作品ではとても静かで効果的。
これらも奇跡と言えよう。

この作品を理解するためには、バックボーンを知らなければならない。

まずアイオワという場所だが、ここは「ザ・アメリカ」とでも言うべき場所。
アメリカ人が憧れる田園風景が拡がっている。
そして政治的には、共和党と民主党の支持が拮抗した激戦区である。
大統領選では、民主・共和両党の予備選挙が最初に行われることで注目されている。

主人公のレイ・キンセラは1952年生まれ。
つまり、ベビー・ブーマーの世代。かなり末期ではあるが。
この世代の特徴は、ベトナム反戦争、ヒッピー文化、ウーマン・リブ、そしてマリファナ。
父親のジョン・キンセラは1896年生まれ。第一次大戦で欧州戦線で戦っている。
この世代は沈黙の世代と言われている。
沈黙の世代とは、まさしく、自分の経験を黙して語らなかった世代だ。
大戦での悲惨な戦争経験がそうさせたと言われている。

ベビー・ブーマーの世代の運動は、まさしく黙して語らぬ自分の親世代に対する闘争だった。
ベトナム戦争や、アメリカ社会の荒廃は、自分の親世代の責任であると考え、反抗したのだ。
沈黙の世代が大戦について雄弁に語っていれば、ベトナム戦争は防げたはずだ、という主張だ。
そこには大きな溝があったはずだ。

作品中、テレンス・マンという隠遁生活を送る黒人ジャーナリストが出てくる。
原作では、「ライ麦畑でつかまえて」で有名なサリンジャーと言うことになっている。
(実際のサリンジャーは激怒し、映画では変えざるをえなかった)
サリンジャーは第二次世界大戦に従軍し、精神を病んでしまう。
戦後、その経験からか、極端にリベラルな小説を多数発表し、保守層から激しい反発を喰らうことになる。
実際、保守的な地域において、彼の作品は「図書館に置くべきではない」とする排斥運動があったという。
映画でも、テレンス・マンの作品を図書館から排斥する運動が描かれている。

この映画を、背景を知らずに一見して分かるテーマはこんな物だろう。
・これはアメリカの野球の、特に失意のうちに野球を去らなければならなかった野球選手の物語である。
・これは良き行いをすれば必ず報われるという、アメリカン・ドリームの物語である。
・これは父と子の物語である。

しかし背景を知ると、本当のテーマが見えてくるはずだ。
アメリカ人が語り継ぎたい映画であるというのも、頷ける話である。

これだけテーマを多重にしてしまった映画が、破綻なく整ったこと自体、僕には奇跡と思えるのだがいかがだろうか。

さて、主演のケビン・コスナーはこの作品の当時は未来を嘱望された俳優だったが、この後鳴かず飛ばずの上スキャンダル多発でぱっとしない。
奥さん役のエイミー・マディガンは「ストリート・オブ・ファイヤー」で有名になった女優。全然美人ではないが、あの強そうな感じがこの作品には素晴らしかった。
シューレス・ジョー役のレイ・リオッタは、野球が下手で、最後のシーンでケビン・コスナーとキャッチボールをしていたが、壮大なロングショットなので失敗すると大変な損害と言うことで、緊張したようだ。
テレンス・マン役のジェームズ・アール・ジョーンズは言わずとしれた名優。僕にとってはトム・クランシー原作の映画シリーズで演じたCIA副長官のグリーア提督が印象的。
ムーンライト・グラハムのバート・ランカスターは本作が最後の映画になったようだ。

画像引用元 映画.com




mugakudouji
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