安保法制を憂う

0317.jpg安保関連法案は、成立が確実な情勢となった。
あえて誤解を招くタイトルにしたが、、僕は今回の安保法案については賛成の立場である。
何を憂いているのかというと、一つは憲法改正問題だ。
自由民主党は結党以来、憲法改正を党是としてきた。
過去何度か憲法改正の機会はあったが、政局や時の総理の判断で断念し、今日に至る。

今回の安全保障法制について、反対派からは憲法違反との指摘がある。
私は法律の専門家ではないが、私個人の感想としては、違憲性は無いと考えている。
憲法の条文そのものは自衛権について何の定めもなく、問題となっているのはその解釈でしかない。
従って、過去の内閣法制局長官などの答弁は当時の政府の解釈として認識されるべきで、その解釈は時代の要請によって変化する可能性がある。
ただ、時代の要請が変化したからと言って過去の解釈がどんどん変更されると言うことはあり得ず、それなりの民主的手続きが必要となる。
それを行ったのが昨年の閣議決定であり、変更を追認したのが昨年末の衆院選ということになる。
そして、具体的手順を定めて法整備が、今国会で議決されようとしている安保法案なのだ。

ところで、憲法改正の最大の原動力は従来「安全保障」であった
「我が国は国際法上、集団的自衛権を保有するが、その行使は許されない」との政府見解が出されたのは鈴木善幸内閣であった。
改憲派は「集団的自衛権は自然権に由来しており国家が本来的に持つ物」という主張をするのが一般的である。
つまり「自然権として国家が本来もっている集団的自衛権を行使できない現行憲法は異常で有り、だから憲法改正の必要がある」ということだ。
一般的に権利の保有は行使とセットであるが、集団的自衛権という権利を持っているのにその権利を行使できないとなれば異常な事態と言うほかない。
私にはこのロジックは非常に説得力があるように思える。

ところが、この度の解釈改憲と安保法制の整備によって、このロジックが破綻してしまった。
「今の憲法だと安全保障に問題があるから、改憲しないといけません」という主張が、成り立ちにくくなってしまったのである。
安倍総理が一番やりたかったと言われる憲法改正は安全保障法案の成立と引き替えに、現実味を失うこととなってしまった。
安倍総理の祖父である岸信介元総理も憲法改正を目指していたのに、「安保改定」と引き替えに退陣することとなってしまったわけだから、これは大変に皮肉なことだ。

日本にとって憲法改正というのは非常に「重い」ことだ。
幸か不幸か、日本人は「憲法を護る」ということに対して非常に強いこだわりを持っている。
その中身が、右の人にとっても左の人にとってもおかしな内容になってきているにも関わらず。
(なぜか左の人は、9条以外で彼らの主張と本質的に相容れない条文についてほとんど触れることはないが。)

本件で、憲法学者が次々に「違憲だ」という見解を示した影響は甚大だ。
憲法改正についてアレルギーが強い国民なのだ。
これによって、憲法改正は更に遠のいた。
これまで何年もの間、与野党を問わず保守寄りの議員によって、超党派で憲法改正の議論を積み上げてきたのに、今回の法整備ですっかり台無しだ。

もう一つの憂いとは、政治不信だ。
国会前に人が大勢集まった。
有権者の数からみれば極めて少ないが、それでも数万という人数はそれなりのボリュームではある。
デモは私からみれば「誤った政治参画」あるいは「無意味な政治参画」だ。
しかし、これに参加した多くの若者は何故か「自分たちが声を上げることによって政治は変えることが出来る」と本気で信じているようだ。
でも、この法案は間違いなく通るし、安倍政権が倒れることもない。
何かが変わると信じて行動したのに短期的には何の成果も得られないから、デモに参加した多くの若者は政治に対する興味を失うことになうかもしれない。
「自分たちが何をしても結局日本の政治は変わらない」と。
あるいは、少数の若者は先鋭化して民青や中核派に取り込まれるかもしれない。

デモという行為は政治参画の手法としては必ずしも間違ってはいないが、それによって直接的に大きく世の中を変えることは難しい。
政治活動というのは、地道でお金や時間のかかる物だ。
まずは投票に行くこと、自身で議員になるのはもちろん、地元議員に対する陳情を行うこともそうだし、マスコミなどを通じて世論の形成をおこなうこともそうだ。場合によっては裁判という手法も有効だ。

デモによって何も変えられなかったからと言って、先鋭化したり、政治に興味を失ったりしないで欲しい。
短期的なデモで変えられるほど、政治は簡単な物ではない。
先鋭化して暴力的になれば多くの国民から支持されないし、興味を失って投票率が下がれば特定の勢力が喜ぶだけなのだ。


無學童子
時事

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