嗚呼無情 テーマ特集「闇夜」のための番外編 ある盗賊団首領の人生論

「無…」
「あー!、あー!」
「何事だ、騒々しい」
「いや、もう聞き飽きましたので、つい邪魔を」
「なるほど、合理的理由だな」
「合理でも、不合理でももうかまわんですよ」
「そうくさるな、くさっても無情は変わらん」
「そういう問題ではないと思うんですがね」
「いや、そう言うもんよ。人生はお先真っ暗、行けども行けども闇夜ばかりだ」
「暗いなら懐中電灯で明るくしましょう」
「いや、懐中電灯の中に電池が入っているほど世の中は甘くはない」
「なら電池を入れれば…」
「暗くて懐中電灯も電池もどこにあるかわからん。仮に見つけたとしても電池か電球のどちらかは必ず切れとる。よしんば点いたとしても電池が弱くてほんの先までしかみえん」
「ボスはそう仰いますがね、人生明るく生きている人もいっぱいいるんですよ」
「そんなものはまやかしに過ぎん。第一それは罪深いことだ。」
「は?」
「明るければ影が出来る。その影の中は真っ暗よ」
「はぁ」
「そもそも明るいということは、逆に暗さを引き立ててしまう。明の反対が暗。誰かが明るくなれば、誰かの暗さが余計に際立つものなのよ」
「何かボスと話していると一生を生き抜くための気力が抜けてしまいますな」
「人生力をいれちゃいかん。どうせ暗い人生だ。楽に生きようではないか」
「”明るい”と思い込んで生きるほうが楽かと思いますがね」
「そこがわしのような大学出のインテリゲンチャにはつらいところなのよ。ついつい物事を深く考え、……やや、何事ぞ」
「停電ですな。まさしく真っ暗ですね。街中が停電なんですよきっと。ええと、懐中電灯は…と、…」
「無さそうだな」
「あ、いや、ここにありました。…あれ?、つかないと思ったら電池が入ってませんね」
「単2の電池ならこのラジオから抜いて使え」
「はいはい、これでよし、…と。あれ、点きませんね。球が切れてるんだ、きっと」
「まったく、人生と同じだな、今の状況は」
「今回の話の終わりはそろそろですからね、ボスの言いたい事はわかりますよ」
「何だ、それは」
「うーん、無情よ、とかね、いつもの決まりきったパターンでしょ」
「なんて嫌味な奴だ。うーん、いやみよ
「……何ですか、それは……」
「オチだ」
「落語じゃあるまいし……、しかもそんなに下手なのは……」
「やはりだめか、うーん、無情よ」
初出「探書手帳28」(1998/11)


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「嗚呼無情」

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